@ビッカフェ(Gifu, Japan)/街並商店(Nagano, Japan)
Photo_Kazuhiro IKEDA /Akimitsu MORITA/Luyujia
わたしはあまり気にしない、『もの』がすべて影ならば、わたしも影だ、だから『もの』はやはり
わたしの仲間だ。『もの』はわたしの仲間である、だからこそ『もの』はわたしにとって愛すべく
敬すべき存在なのだ、だからこそわたしは『もの』を愛することできるのだ。
ーーヘルマン・ヘッセ『シッダルタ』
ここ数年、私はこの世の既存の価値観を超えて考える方法を学び、模索しています。
すべての歴史や知識はこの世界によって構築されたものであり、ここに長くいればいるほど、
この構築された“檻”の外の世界を想像することができなくなることに気づきました。
3年前のある日、私は日々の生活の中で「他種」と自分の間に起こったことを絵日記で
記録し始め、その不思議な結びつきを何かの表現でまとめようとしました。
1年前、修士作品として発表した「Paradise」では、絵日記に登場した12の 「他種」
を選び、粘土でオブジェを作り、「他種」のオブジェと一緒に白い部屋の中で3時間の
パフォーマンスを行いました。あの時異なる素材のものを、粘土で統一しようと思ったの
は、土に豊かさをなんとなく感じているからです。土はわれわれの住む世界そのものを
生み出している存在なのです。しかし、私にとっては新しい手法である立体物の造形の
難しさと、粘土の扱いに慣れていなかったので、結局ネット通販で購入した粘土と、針
金、新聞紙、接着剤、アクリル絵の具など、様々な材料を使って12のオブジェを制作
しました。
とにかく、当時は土で「万物」を再現したいという思いを叶えることができませんでした。
去年3月に大学院卒業後、長野県大町市の北アルプスのふもとに移り住んだことによって、
生活や身の回りのものが、これまで以上に土と近くなりました。そこで、土を使って身の
回りの「他種」をもう一度再現してみようと思いました。
この個展で使用した土は、主にこの町の山や湖のほとりで採れた粘土です。野生の土に
はそれぞれ生態や個性があるので、削る、濾す、捏ねる時に一律には扱えないことにも気
づきました。また、去年の秋に私は初めて野焼きで陶器を焼く方法を学びました。それで、
土から作ったものをすべて火で焼くようになりました。
野焼きは、常に火の勢いを調整しないと土器が爆発したり、割れたり、炎の形と薪の配
置によって焼成した土器の模様も違います。しかし、その不確かさ、完全には制御できない
性質に「他種」の存在をより実感しました。それは私の期待していた「火」と「土」、
そして世界のあらゆるもの(万物)とのつながりの豊かさがあることを改めて確信しまし
た。
私は元々右利きです。左手を使って絵や文字をかきはじめたのは2年前でした。子供の
ころから絵を学び、高校の時美大の予備校で8ヶ月ぐらい受験のための絵を毎日朝から晩
まで描いていました。苦労の末に美大に入れて、夢を叶えた私は、日々の訓練の繰り返し
で、試験で高得点を取れる絵しか描けない手になっていることに気づきました。
長い間、絵を描くことをやめていたある日、左手に絵と文字を教えてみようと思いつき
ました。最初、私の左手は字を習いたての子供のようで、何も言うことを聞きませんでした。
しかし、この子供っぽさと不安定さが、私に喜びと安らぎを与えてくれました。
この作品では、粘土と左手が書いた文字を通して、「万物」と境界を超える在り方を
表現します。25個の粘土で作った「他種」とその思い出に加えて、アーティストの小内光
との対談ビデオも展示します。
2023 video 32'15"
作家の小内光さんは私といろいろ「話せる」ことがある。「話す」時は、「言葉」だけではなく、「言葉」で伝わらない部分まで「話せる」。
ある日、自分と他種について「話して」、録音した。
小内光(おさないひかり)
1993年新潟県生まれ。
日本語と土の2つの素材を行き来しながら、微細な触覚や嗅覚の中へ分け入る表現を通してなるべく長く地球に生き延びる命を探している。
弊社ではCookieを使用してWebサイトのトラフィックを分析し、Webサイトでのお客様の体験を最適化しています。弊社によるCookieの使用に同意されると、お客様のデータは他のすべてのユーザーデータと共に集計されます。